解体予定建物での訓練

防災知識

以前私は、解体予定の建物で実際に破壊行為を伴う訓練を実施したことがあります。

火災現場では緊急の場合、破壊を伴う進入や脱出を行いますが、こんな機会は滅多にありません。消防局は、管轄する建築関係の境界と提携を結ぶことで、このような解体の決まっている建物で特殊な訓練をさせてもうことができるのです。

まず破壊前に、緊急脱出

最初に破壊訓練をするとその後の訓練ができない場合があります。(密封空間で濃煙を焚いて、脱出など)

その時は、所属する消防署を含めた隣接する3つの消防署による合同訓練が行われました。場所は、近いうちに解体が決まっている旧工場の建物です。  

普段の訓練では、訓練塔などの決まった施設を使うことが多いため、どうしても「壁の強度」や「ドアの壊しやすさ」などを体に染み込ませるような本格的な破壊訓練には制限があります。しかしその時は「解体予定のリアルな建物」を使用できる貴重な機会でした。実災害に限りなく近い現場で、より実践的な活動能力の向上と関係機関との連携強化を図ることが、大きな目的でした。  

訓練当日、真夏のギラつく太陽のもと、各署から集まった隊員たちが顔を揃えました。重い防火衣を身にまとい、空気呼吸器を装着するだけで、全身から汗が吹き出します。  

最初に行われたのは、濃煙が充満した建物内からの緊急脱出訓練です。視界が完全に奪われた状況を想定し、自分たちが引き込んだホースだけを手がかり(検索線)にして屋外へ脱出します。

空気呼吸器の警報音が脳内で鳴り響くような緊張感の中、バディを組む隊員と互いに声を掛け合い、手探りでホースをたどっていきます。壁の感触や曲がり角の位置、そしてホースの継ぎ目の向きで進行方向を確認する感覚は、実際の火災現場そのものでした。近隣の消防署の隊員と息を合わせ、確実な連携で無事に屋外へ脱出できた瞬間、ヘルメットの奥で安堵の呼吸が漏れました。  

強制進入訓練

続いて実施されたのが、施錠されたドアを解放する強制進入訓練です。ここではエンジンカッターやバールなどの破壊器具が投入されました。普段の訓練では「模擬扉」を傷つけないように気を遣う場面もありますが、今回は実際の建築物の扉です。エンジンカッターを起動すると、爆音とともに激しい火花が飛び散り、金属の焦げる匂いが周囲に立ち込めました。  

ドアの構造や錠前の位置を見極め、バールで隙間を作り、エンジンカッターの刃を正確に入れていく作業は、力任せではうまくいきません。一瞬の油断が大きな事故につながるため、隊員同士で周囲の安全管理体制を徹底し、資機材の正しい取り扱い方法や対応要領を一つひとつ確認しながら慎重に進める。ガチャンと音を立てて強固なドアが開いた瞬間、隊員たちの間には大きな達成感と同時に、本番さながらの研ぎ澄まされた緊張感が走りました。  

隣接する3署が合同で訓練を行う意味も、非常に大きいと感じました。大規模な火災や災害が発生した際、私たちは管轄の枠を超えて協力し合わなければなりません。それぞれの署で培ってきたノウハウや手際を間近で見比べ、意見を交わしながら活動することで、互いの連携体制がより一層強固になったと実感しています。  

訓練を終えて

解体予定の建物だからこそ実現できた訓練は、教科書や訓練場だけでは得られない「本物の手ごたえ」と「現場の空気感」を教えてくれました。自分の手にかかる感触、汗で重くなった防火衣、そして共に汗を流した仲間たちとの絆。そのすべてが、いざという時に傷病者や市民の命を救うための確かな力になると確信しました。  

消防士は解体予定の建物でも、こうした実践的な訓練を積み重ね、どのような現場であっても冷静かつ確実に活動できるよう、地域の災害対応力の向上に全力で努めています。

以上、報告終わり!

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