私が経験した様々な出動の中でも、特に強烈な記憶として残っている「新人の頃の救急出動」の出来事をお話しします。
それは、町工場からの119番通報でした。「作業中に機械に手を挟まれ、指が切断された」という内容です。現場へ向かう車内、新人の私は心臓が口から飛び出そうなほどの緊張の中にいました。しかし、現場に到着した瞬間、そんな緊張さえも一瞬で吹き飛ぶほどの、すさまじい衝撃を受けることになります。
先輩隊員から飛び出した「切断した指を拾ってこい」という一言。それが、私が本当の意味でプロの救急隊員になった瞬間でした。
目の前が白くなった、先輩からの「指拾ってこい」
現場の工場に入ると、そこには激しい出血を抑えながら、痛みに顔を歪めている作業員の方がいました。先輩隊員たちは、すぐに止血処置やバイタルサイン(血圧や脈拍)の測定に移り、病院受け入れ交渉に移ります。
その時、隊長が私の目をまっすぐ見て、信じられない言葉を口にしました。 「おい、機械の周りを探して、切断された指を拾ってこい。 早くしないと繋がらなくなる!」
その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中は真っ白になりました。 訓練では、ダミー人形を使って「部位の保護」の手順は習います。しかし、本物の、さっきまで体の一部だったものを自分の手で探し、拾い上げるというシチュエーションは、想像を絶する恐怖と衝撃でした。「本当に自分がやるのか?」「見つけてしまったらどうしよう」という動揺が、全身を駆け巡りました。
恐怖を打ち消した「命を繋ぐ」ための医学的理由
足がすくみそうになりましたが、先輩の「早くしないと繋がらなくなる」という言葉が頭の中でリフレインしました。病院に運んだ後、お医者さんが指を再び縫い合わせる(再接着手術)ためには、切り離された指がどれだけ綺麗に、そして早く保護されているかが勝負になります。
医学的には、切断された組織は時間が経つほど細胞が死んでしまいます。そのまま放置すれば、その方は一生、指を失ったまま生きていくことになります。
「怖がっている場合じゃない。この人のこれからの人生が、自分の手にかかっているんだ」
そう強く自分に言い聞かせ、私は機械の油と血の海の中に目を凝らしました。必死の捜索の末、手袋に包まれた小さな塊を見つけたとき、手の震えは止まっていました。その時の「重み」は今も忘れることができません。皆さんは想像できるでしょうか?人の一部の重みを。。。
教わった通りに、清潔なガーゼで包み、乾燥しないように生理食塩水で湿らせてからビニール袋に入れ、それをさらに氷水の入った袋で冷やす(直接氷に触れさせないのが鉄則です)。
この一連の動作を終えたとき、初めて「救急隊員として機能できた」という感覚が湧き上がってきました。
「現場のリアル」
皆様は、テレビのドラマなどで格好良く救命処置をする姿を見ることが多いかもしれません。しかし、実際の現場は、時に目を背けたくなるほど生々しく、残酷です。
私たち消防士や救急隊員も、最初から感情のないロボットのように動けるわけではありません。新人の頃は、血を見て血の気が引くこともあれば、今回のように強烈な指示にパニックになりかけることもあります。
それでも私たちが動けるのは、「目の前の人の未来を、少しでも良いものに変えたい」という強い使命感があるからです。私があの時、衝撃を乗り越えて指を拾い上げたように、すべての隊員がそれぞれの限界を乗り越えて現場に立っています。
もし皆様の目の前でこのような事故が起きてしまったら、まずは119番通報をし、もし可能であれば、切断された部位を乾燥させずに冷やして保管しておいてください。その一歩が、病院での手術の成功率を大きく左右します。
あの「指を拾ってきて」と言われた日の衝撃と、手のひらに残った感覚は、今でも私の原点として胸に深く刻まれています。
以上、報告終わり!


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